大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(う)1410号 判決

所論に鑑み原判決と本件起訴状とを比較対照するに、原判決は本件私文書偽造行使罪の事実摘示として、被告人は「足立淳一」の氏名、印章を冒用して自己を代理人とする印鑑証明願に関する委任状一通を偽造行使した旨判示しているに対し、起訴状には「足立享一」の氏名、印章を冒用して右委任状を偽造行使した旨うたつてあり、両者の右記載に相違のあることは正に所論のとおりである。

よつて更に進んで本件記録を精査するに、事件差戻後の原審第二回公判廷に、「足立享一」が証人として召喚されて出頭し尋問を受けたが、同人は「足立淳一」と名乗り宣誓書にも「足立淳一」と自署し「足立淳一」の名前で尋問を受けておることが認められる。その前後の訴訟経過から見るに、原審裁判官は「足立享一」を証人として尋問することを決定して召喚状を発し前記原審第二回公判廷に出頭した「足立淳一」と名乗る男が取りもなおさず「足立享一」その人であることを確認した上その証人尋問を了し、これに対しては被告人弁護人その他訴訟関係人より何等異議のなかつたことが明らかである。即ち「足立享一」と「足立淳一」とは同一人であつて、「足立享一」の外に「足立淳一」なる別人が存在しているわけではない。要するに後者は前者の別名であると解すべきである。このことは事件差戻前の原審第二回公判廷における証人「足立享一」の供述内容と事件差戻後の前記第二回公判廷における「足立淳一」名義の供述内容とを比較検討して見ても容易に首肯されるところである。これを要するに原審裁判官は「足立淳一」と「足立享一」とは同一人であることを十分に認識し、その前提の下に、所論のように「足立淳一」の氏名印章を冒用し云々と判示したものであることは更に疑問の余地がない。さればこそこれが証拠の標目中「足立享一」名義の偽造委任状一通(昭和二十六年押第三五号の九)を特に挙示引用しその間の事情を明らかにしたものと思われる。ただ原判決は起訴状に「足立享一」と記載してあるのを漫然「足立淳一」と判示し、判文上右「足立淳一」と「足立享一」とは同一人であることについて何等説明するところがなかつたため、所論の批難を招くに至つたものと推測されるが、かかる瑕疵は判決に影響を及ぼすものではない。結局原審においては審判の請求を受けた事件について判決をし、審判の請求を受けない事件について判決しているわけでないから論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!